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国内における小児の原因不明の急性肝炎について

(第1報)

2022年6月23日時点

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

実地疫学研究センター

感染症疫学センター

                                                                                   (掲載日 2022/6/30)

(一部訂正 2022/7/6)

英語版  

 

 2022年4月以降、欧米で16歳以下の小児の重症急性肝炎症例の集積が報告された。原因としてアデノウイルス感染の関与の可能性も指摘されているが、現時点ではその他の感染症や化学物質等を含めた単独の原因としては確定されていない。この海外の状況をうけ、厚生労働省は事務連絡により小児の原因不明の急性肝炎についての情報提供を依頼した(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」、5月13日一部改正)。

 ここでは、厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査で収集された報告例と、感染症発生動向調査で把握可能な、急性ウイルス性肝炎およびアデノウイルス感染症に関連する定点把握疾患、病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)について述べる。

要旨

・2022年6月23日までに暫定症例定義を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が62例報告された。これまでに肝移植を要した症例及び死亡例の報告はない。また、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されていない。

・感染症発生動向調査にもとづく関連情報においても、国内で小児の急性肝炎、アデノウイルス感染症が増加している兆候は認められていない。

・これらの情報より、国内で急速に症例が増加する状況ではないと考えられる。本症例の原因は現時点で究明中であり、情報収集を継続する必要がある。


小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要

 厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義は以下のとおりである。(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」)

2021年10月1日以降に診断された原因不明の肝炎を呈する入院例のうち、以下の①、②、③のいずれかを満たすもの:

① 確定例 現時点ではなし。

② 可能性例 アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミナーゼ(ALT)が500 IU/Lを超える急性肝炎を呈した16歳以下の小児のうちA型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者。

③ 疫学的関連例 ②の濃厚接触者である任意の年齢の急性肝炎を呈する者のうち、A型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者。

上記の暫定症例定義を満たす可能性例が、国内で62例報告(表1)されているが、原因となる病原体、発症の時期について明らかな傾向は認めていない。

表1 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の発生状況(6月23日10時時点)

table1

 62例のうち、34例(55%)は男性、28例(45%)は女性で、年齢中央値は5歳(四分位範囲2-10歳)であった(表2)。情報が得られた症例のうち、基礎疾患を有する者の割合は28%(17例/60例)であった(表2、表3)。

 少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は22%(12例/55例)、肝炎発症の前に新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は9%(5例/58例)であった(表2)。

 症例は全国の各地域から報告されており、現時点で地域的な偏りはみられていない。

 急性肝不全の診断基準は、「正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から 8 週以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間が40%以下ないしはINR値1.5以上を示すもの」とされている(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:2015年改訂版)。

この急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた32症例のうち4例(13%)、そのうち2例に基礎疾患があり、いずれも地域的な偏りを認めていない(図1)。

 発症週は2021年第40週から2022年第22週で(図1)、症例の93%(57例/61例)が2022年第7週[2022年2月14日~2月20日]以降の発症であった。2022年第7週以降、発症者は継続して報告され、1週間あたりの発症者数の中央値は2例(四分位範囲1-5例)であった。

 症例の報告に関する事務連絡が発出された2022年第17週の後、2022年第17週から第18週にかけて発症者数の増加を認めるが、直近の発症者については遅れて報告される可能性があること、また、事務連絡の発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、解釈には注意を要する。

 臨床症状は、情報が得られた症例において、37.5℃以上の発熱68%(41例/60例)、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者)52%(31例/60例)、咳嗽28%(17例/60例)、黄疸22%(13例/60例)、白色便5%(3例/60例)、意識障害5%(3例/60例)であった(表2)。

これら症例の検査の実施状況は一律でなく、また検査中の症例も含まれる。

肝機能の指標となるASTとALTについて情報が得られた60例では、中央値[四分位範囲]がそれぞれ、AST 698 IU/L [417-1,007 IU/L]、ALT 746 IU/L [556-1,238 IU/L]であった。また総ビリルビンとPT-INRについて情報が得られたそれぞれ39例、32例では、中央値[四分位範囲]がそれぞれ、総ビリルビン 1.0 mg/dL [0.48-4.31 mg/dL]、PT-INR 1.09 [0.99-1.32]であった(表2)。

 全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査については、情報の得られた症例の8%(5例/59例)からSARS-CoV-2が検出された。また、アデノウイルスの検査が実施され、その結果が判明している症例は計58例であり9%(5例/58例)でアデノウイルスが検出された。そのうち1例が1型、1例が2型であった(表1)。3例は病院の検査で陽性であったが地方衛生研究所の検査では陰性となり、アデノウイルスの型は判明しなかった。この他7例は地方衛生研究所において検体の精密検査中である。その他、地方衛生研究所において、HHV-6ウイルスが3例、HHV-7ウイルスが2例、EBウイルスが2例、ライノウイルスが2例、ノロウイルスが1例検出されている。現時点では、これらの検出状況について特徴的な傾向を認めない。肝生検による病理検査結果の情報が得られた症例はない。

 発症から入院までの期間の中央値[四分位範囲]は4日[2-9日]であった。62例中53例(85%)はすでに退院しており(6月23日時点)、情報のある51例における入院期間の中央値[四分位範囲]は9日[7-14日]であった。

情報の得られた症例においては、ICU/HCU入室例は19%(6例/31例)であり、そのうち3例に基礎疾患があった。

肝移植の適応となった症例や死亡例はないが、転帰については、さらなる観察期間を要する可能性に注意が必要である。なお、本症例の原因は現時点で究明中であり、情報収集を継続する必要がある。

図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発症状況(6月23日10時時点)

  1

表2. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=62, 62310時時点)

table2

表3 基礎疾患の分類(n=17, 6月23日10時時点)

table3

 

感染症発生動向調査にもとづく関連情報

〇感染症発生動向調査(NESID)

・「ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)」の小児の症例数の報告が増えている兆候は見られていない(6月2日時点)

 感染症法による感染症発生動向調査では、ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)は、5類感染症の全数把握対象疾患に定められ、診断した医師は7日以内に保健所に届け出ることが義務づけられている。当疾患の報告数は、2020~2021年は2017~2019年と比べて少なく、2022年第1~21週も、報告数の増加は見られていない。小児の報告は稀であり、2021年以降16歳以下の小児の報告は3例のみである。なお、2017年以降、一貫してB型・C型肝炎が最も多く、当疾患の7割以上をこれらが占めている(D型肝炎の報告は0例)。2021年以降は、B型・C型・D型肝炎以外のウイルス性肝炎の症例報告数はわずかに増えているが、その起因ウイルスのほとんどはサイトメガロウイルスかEBウイルスである。同期間にアデノウイルス5型が検出された症例が1例報告されたが、小児ではなかった。

・アデノウイルスに起因する症候群が大きく流行している兆候は見られていない(6月15日時点)

 アデノウイルスに関連する症候群には、感染性胃腸炎、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などがある。感染症発生動向調査において、これら3疾患は定点報告対象疾患(5類感染症)であり、指定届出機関(感染性胃腸炎、咽頭結膜熱:全国約3,000カ所の小児科定点医療機関、流行性角結膜炎:全国約 700カ所の眼科医療機関)は週ごとに、週単位の集計数を保健所に届け出なければならない。2022年第1~23週のこれらの定点当たり報告数は、2017~2019年と比較し、同様かそれ以下の水準(レベル)で推移している。なお、傾向としても、2017~2019年と比較し、異なる動向は見られない。

・NESID病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)における報告状況から、アデノウイルスが大きく流行している兆候は見られていない*(6月3日時点[一部6月16日時点])

 地方衛生研究所等が病原体サーベイランスに報告した病原体の検出情報(感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報)によれば、2022年においてアデノウイルス報告数が増加している、あるいは高いレベルで推移している兆候は見られていない。

 

 なお、小児科定点から報告のあった、胃腸炎症状(下痢、嘔気・嘔吐、腹痛)を認めた症例に限定した病原体サーベイランスに報告された病原体においても、2022年のアデノウイルス報告数は増加をみとめず、低いレベルで推移している(6月16日時点)。感染症発生動向調査では2021年末~2022年上旬に、小児科定点より感染性胃腸炎の定点当たり報告数が増加したが(2017~2019年の同時期とほぼ同レベル)、この時期に病原体サーベイランスに小児科定点より胃腸炎症状として報告された大部分の症例からはノロウイルスが検出され、アデノウイルスの検出は少なかった。アデノウイルスの検出は、2020年の4月以降、低いレベルで推移しており、2017~2019年の同時期の検出数よりも少ない傾向が続いている。

病原体サーベイランスにおいて、2017年1月~2022年4月までに、「肝炎」の記載があり、検体よりアデノウイルスが検出された4例が報告された(2017年に3例、2019年に1例)。いずれも3歳未満であり、アデノウイルスの型は1型、5型、6型のいずれかであった。また、「肝機能障害」の記載があり、検体よりアデノウイルスが検出された症例は、例年数例ではあるが報告されており、その大半が小児であった。なお、2022年現在は4例報告されているが、例年と同様な報告数である。

*病原体サーベイランスにおいては、検出から報告までの日数に規定がないため、報告が遅れる可能性があり、特に直近の情報については、解釈に注意が必要である。

 

〇学会等の医師ネットワークや、小児肝移植を行う医療機関においても、小児の重症肝炎や移植例が増えているという事実は現在のところ確認されていない。

 感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。

  

【訂正】                        

(2022/7/6)急性肝不全の診断基準を満たす症例数及び割合について訂正しました。

 

 

参考資料

  日本の感染症サーベイランス(2018年2月現在) 

  国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報(IDWR)

  国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR) 

 

関連項目

  複数国で報告されている小児の急性肝炎について     

 

 

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